大判例

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東京高等裁判所 平成4年(ネ)1692号 判決

控訴人

甲野太郎

被控訴人

大和キリスト教会(旧名称座間キリスト教会)

右代表者代表役員

大川従道

被控訴人

大川従道

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

大矢勝美

右同

宮本光雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人と被控訴人大和キリスト教会(以下「被控訴人教会」という。)との間において、控訴人が被控訴人教会の信徒の地位にあることの確認を求める訴えを横浜地方裁判所に差し戻す。

3  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、二〇〇万円及びこれに対する平成元年七月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人大川従道(以下「被控訴人大川」という。)は、控訴人に対し、三〇〇万円及びこれに対する平成元年七月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人大川は、原判決別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を被控訴人教会所属の信徒全員に配付せよ。

6  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

7  3、4項につき仮執行宣言

二  被控訴人ら

主文第一項と同旨

第二  当事者の主張

原判決一二丁裏三行目の「(二)」を「(三)」と改め、同一四丁裏九行目の次に行を改め「(三) 同(三)は争う。」を加えるほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一本案前の主張について

裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法三条にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、請求原因1の事実は当事者間に争いがないから、被控訴人教会は宗教法人法に基づき設立された宗教法人であり、控訴人は昭和五九年八月から被控訴人教会の信徒であるというべきところ、〈書証番号略〉及び被控訴人大川従道の本人尋問の結果によれば、被控訴人教会における信徒は、被控訴人教会の教義を信奉し、洗礼を受けたうえ、役員会の承認を得た者で、教会員名簿に登録された者をいうこと(被控訴人教会規則一九条)、信徒は、被控訴人教会に対し、月定献金等の献金をなす義務があり、これによって教会の財政が運営されていること、被控訴人教会の規則には、信徒は、被控訴人教会の議決機関である教会総会の代議員、財産状況・事務の執行を監査し、必要に応じて責任役員会・教会総会に報告する権利を有する監事、予算の編成等の教会の事務を決定する権限を有する責任役員会の代表役員以外の責任役員、その代務者等の被選任資格を有すること(同六条、一一条、一八条、二二条)、被控訴人教会において、不動産等の重要な財産の処分等を行う場合には、教会総会及び責任役員会の議決を経たうえ、信徒その他の利害関係人に公告しなければならないこと(同三一条)、被控訴人教会の規則のうち目的(同三条)等を変更しようとするときには、信徒の三分の二以上の同意を得なければならないこと(同三九条)が規定されていることが認められ、右認定の事実によれば、被控訴人教会は、信徒による献金によってその財政が支えられ、信徒の中から選ばれた役員らによってその運営がなされているものというべきであるから、信徒は被控訴人教会と密接な利害関係をもつ構成分子であると認められる。

また、宗教法人法は、宗教法人の不動産等の重要財産の処分等、被包括関係の設定又は廃止に係る規則の変更、合併、解散等の場合につき、「信者その他の利害関係人」にその旨を公告すべきこと(同二三条、二六条、三四条、三五条)、一定の財産処分については、右公告を欠くときは無効であること(同二四条)、宗教法人が、規則の変更、合併、解散等につき所管庁の認証を受ける際には、右公告をしたことを証する書類を提出すべきこと(同二七条、三八条、四五条)、所管庁は、右認証に際して、当該宗教法人が右公告をしたかどうかを審査のうえで決定すべきことを(同二八条、三九条、四六条)、更には、宗教法人が解散する場合には、「信者その他の利害関係人」に対し、解散に意見があれば申し述べるべき旨を公告しなければならず、意見が述べられたときは、その意見を十分に考慮して解散の手続を進めるかどうかを再検討すべきこと(同四四条)等を規定しており、宗教法人の「信者その他の利害関係人」に特別の法律上の地位を認めている。

前記認定の被控訴人教会における信徒の地位及び宗教法人法の右各規定を総合勘案すると、被控訴人教会の信徒は、宗教法人法にいう「信徒その他の利害関係人」に該当するものというべきであって、単なる宗教上の地位に止まらず法律上の地位をも有するものと認められる。また、本件における信徒たる地位の確認を求める訴についての争点は、前記のような離籍処分の理由の有無であって、宗教上の教義に関する判断が必要不可欠のものでないことは明らかである。

したがって、本件被控訴人教会の信徒の地位の確認を求める訴は、「法律上の争訟」にあたるというべきである。

よって、本案前の主張は理由がない。

二本案について

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決一七丁裏七行目から同三一丁裏二行目記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一七丁裏七行目の「による」を「の効力及び」と改め、同一八丁裏九行目の「教会総会における議決権や、」を削除し、同一一行目の「ことが、」の次に「前掲甲第五号証及び」を加え、同一九丁表一行目から同二行目の「しかし、」までを削除し、同二〇丁裏五行目の「事実に、」の次に「前掲乙第一七号証、」を加え、同七行目の「一号証、」を「一ないし」と、同一〇行目の「一七」を「一八」と、同二一丁表四行目及び同九行目の「提供」をいずれも「購入」と各改め、同一二行目の「献金」の次に「(月額一万円)」を加え、同二二丁表六行目の「キリスト」から同七行目の「述べた」までを「聖書的説教をする人が実は異言で神を呪っている等の記述がされている」と、同二三丁表六行目の「一七」を「七」と各改め、同二四丁裏一行目の「して、」の次に「全員一致で」を加え、同二五丁表二行目の「一七」を「七」と改める。

2  同二六丁表一〇行目から同丁裏九行目までを次のとおり改める。

「(二) 控訴人による昭和六〇年九月以降の月定献金の停止についてみるに、前記のとおり、控訴人は、月定献金が被控訴人教会の信徒にとって基本的な義務であり、また、教会の財政運営上欠くべからざるものであるのに、一方では、被控訴人教会の活動には参加しながらも昭和六〇年九月以降相当期間献金を中止し、被控訴人大川からの説得をも拒否し続けているものであって、右行為は、被控訴人教会における基本的な義務を怠るものとして、制裁の対象となると解すべきである。

なお、前記のとおり、控訴人は被控訴人大川ら役員の財政運営に対する不満を理由とするが、月定献金の前記のような性質等を考慮すれば、これを理由として、右献金を拒むことは相当でない。また、〈書証番号略〉、被控訴人大川従道の本人尋問の結果によれば、被控訴人教会には、月定献金をしないことを理由として離籍されたことはない信徒の存在することが認められるけれども、いずれも既に他に転居するなど被控訴人教会の活動への参加を事実上中止している者にすぎない。」

3  同二八丁表一行目の「用意」を「容易」と改め、同丁裏三行目の「超え、」の次に「被控訴人教会の内部における宗教的秩序を乱すものであり、昭和六〇年九月以降の月定献金の停止は、信徒としての基本的義務を怠るものであり、また、」を加え、同二九丁表一一行目の「不法」から同一二行目の「原告の」までを「違法であり、その効力がないことを理由とする信徒の地位の確認及び損害賠償」と改める。

4  同二九丁裏三行目、同四行目を次のとおり改める。

「1 請求原因3(一)(1)及び(2)の事実並びに同3(一)(3)の事実のうち被控訴人大川が昭和六一年六月一五日午前一一時ころ、被控訴人教会定例の第三礼拝において、信徒約二〇〇名の面前で、祈祷中に、原判決別紙演説目録(四)記載の言葉(第四演説)を挿入したことは当事者間に争いがなく、〈書証番号略〉及び控訴人本人の尋問の結果によれば、被控訴人大川は、右第三礼拝において、同目録(三)記載の言辞が挿入された演説(第三演説)をもしたことが認められる。」

5  同二九丁裏五行目の「特業」を「徳行」と改める。

三以上のとおり、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから、失当として棄却すべきである。これと異なる原判決中控訴人が被控訴人教会の信徒の地位にあることの確認を求める訴を却下した部分を取り消し、右部分については既に原審において実体審理が尽されているから事件を原審に差し戻すことなく、請求棄却の判決を、その余の控訴を棄却すべきところ、原判決に対しては、第一審原告である控訴人のみが控訴し、第一審被告らである被控訴人らは控訴していないから、所謂不利益変更禁止の原則により、原判決の結論を維持するほかなく、控訴人の控訴を棄却するに止めざるをえない。よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 時岡泰 裁判官 大谷正治 裁判官 小野剛)

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